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語彙力を増やせば“言葉の海”を渡れるのか?

映画を見ているカップル突然ですが、「憮然(ぶぜん)」の意味を知っていますか?
これは、2016年10月からアニメ化された三浦しをん原作の『舟を編む』で取り上げられた熟語です。
「憮然とした表情をしてください」と言われて、“むすっとした不満な顔”をしていたらそれは本来の意味とは違うものです。
しかし、最近ではその誤用も新たな意味の1つとして辞書に載るようになりました。
「言葉は変化するもの」と言われていますが、言葉に溢れている生活の中で、私たちはどれだけ伝えたいことを伝え、相手の話す言葉を理解しているでしょうか?

「憮然」の意味

そもそも憮然という言葉には、次のような意味があります。

憮然 ― 失望・落胆してどうすることもできないさま。意外なことに驚き、ぼうっと(ぼんやり)する様子。

ほとんどの方が冒頭で述べた本来とは違う意味で捉えており、世間的な意味が変わってきています。
実際に、2008年7月に文化庁が行った「国語に関する世論調査」では、「憮然」を本来の意味の捉え方に対して次のような結果が得られました。

【憮然として立ち去った】
・失望してぼんやりしている(17.1%)―― 本来の意味
・腹を立てている(70.8%)―― 新たな意味

この結果から、7割を超える人が本来とは異なる意味で認知していたことが分かります。
これを見ると「どちらが正しいのか?」「どちらが伝わりやすいのか?」があやふやになってしまいますね。

実際に、『大辞林』では“本来とは違う”意味を1つ目の用例として記載されています。また他の辞書でも補説として誤用が多くなっている背景を記載しています。

言葉を伝える、受け取るということ

先に挙げた「憮然」以外にも「檄を飛ばす」といった例があります。
「檄を飛ばす」の本来の意味は「自分の主張を周りに伝え、同意を求める」というものです。ですが、いつしか「周りを活気づける」という意味で捉えられるようになりました。

難しい言葉を覚えて、どんなに情景や状況にふさわしくても、ただ使うだけでは相手に100%伝えられない場合もあるのです。

相手に分かるように工夫された表現

テレビなどで見かける天気予報でも、視聴者が分かりやすい表現を使うように心掛けています。その1つの例えが「バケツをひっくり返したような雨」という表現です。

これは実際にどのくらいの降雨量を指すか知っていますか?
気象庁では、1時間当たりの降水量が30㎜以上50㎜未満の雨を「バケツをひっくり返したような雨」と表現します。

ただ淡々と「今日は午後から30㎜の雨が…」と正確な情報を伝えられても、私たちはピンと来ないでしょう。より多くの方の理解・共感を得られるように工夫した結果「バケツをひっくり返したような雨」という表現が使われているのです。
言い換えれば、正確な意味や情報を伝えるだけでは、多くの方に伝わらないと言えます。

あなたの舟を見つけてみては?

現代ではスマホやパソコンを利用して、ビジネスシーンで利用される和製英語をはじめ、さまざまな言葉の意味をすぐに知ることができます。
しかし、インターネットを通して得られる情報は、最新の意味だけが解説されていたり、本来のものとは“異なる意味”であったりする可能性があります。
そのような情報は、あなたが安心して乗れるような、言葉の海を渡る舟だとは言えないかもしれません。

『舟を編む』の作中に「辞書には個性がある」と語られるシーンがあります。
実際に意味や用例が感情的であるなど、面白く感じながらも、「なるほど!」と言える説得力のある辞書も存在しています。
個性があるのは、私たち人間も同じです。人それぞれに言葉の使い方に特徴があります。
そんな個性を持ちつつも、相手伝わるような言葉を選んで使うこと、相手の言葉が伝えたい意味を正しく受け取れるように、自分の中にも“辞書”を持つことが大切です。
ただ自分の辞書の語彙数を増やすだけでは言葉の海は渡れません。
今一度、「普段から使っている言葉やその意味」と、「人に伝わる言葉や表現」を見直して、自分なりの“辞書”をつくりあげてみませんか。